北アルプスで唯一、今も噴煙を上げている山が焼岳です。新中の湯ルートから北峰に登り、そのまま上高地へ下りる9.6km・のぼり913m・行動時間4時間18分の一日。山頂は真っ白で展望ゼロでしたが、下りはじめた途端に雲が切れて、硫黄の匂う岩肌と霞沢岳の稜線が次々に現れました。登って下りて温泉まで、詰め込みたい人にちょうどいい山です。
コースデータ
| 日付 | 2025年9月21日(日) |
| ルート | 新中の湯登山口 → 焼岳北峰 → 中尾峠 → 焼岳小屋 → 上高地 |
| 距離 | 9.6km |
| 累積標高 | のぼり913m / くだり1,011m |
| 行動時間 | 4時間18分(休憩含む) |
| 天気 | 曇り(山頂はガスの中、下山時に晴れ間) |
| メンバー | ソロ |
登り一辺倒ではなく、下山は反対側の上高地へ抜ける片道コースです。マイカーの場合は上高地からバスで戻ることになるので、その前提で計画してください。詳しくは後半に書きます。
この山について
焼岳のいちばんの特徴は、北アルプスで唯一の活火山だということです。山頂に立つと足元から硫黄の匂いがして、岩の隙間から蒸気が出ている。「山に登った」というより「火山に来た」という感覚のほうが近いかもしれません。
登れるのは北峰だけ
焼岳には南峰と北峰の2つのピークがあります。最高点は南峰の2,455.4mで、国土地理院の三角点もこちらにあります。ただし南峰は岩が崩れやすく登攀禁止になっているため、登山者が立てるのは北峰(2,444.3m)までです。
ちなみに北峰の山頂標識には「標高2,393m」と書かれています。国土地理院の数字とは50mほど差がありますが、理由までは分かりませんでした。標識の位置と最高点が少しずれているのかもしれません。
大正池をつくったのはこの山です
上高地に行ったことがある人なら、立ち枯れの木が水面から突き出た大正池を見たことがあると思います。あの池をつくったのが焼岳です。
1915年(大正4年)6月6日、焼岳が大きな噴火を起こしました。このとき流れ出た泥流が梓川をせき止めて、堰き止め湖ができた。それが大正池です。名前のとおり、できてまだ110年ほどしか経っていない若い池ということになります。
その後も1962年に水蒸気爆発があり、当時の焼岳小屋が火山灰で押しつぶされて4名の負傷者が出ています。松本市内でも降灰が観測されたそうです。今は静かに見えても、そういう山だということは頭に入れておいたほうがいいと思います。
なぜ初心者向けと言われるのか
初心者向けの山として名前が挙がることが多い理由は、標高差とコースタイムのバランスにあります。新中の湯登山口の標高が約1,600mなので、山頂までの登りは800mちょっと。往復なら4〜5時間で戻ってこられます。北アルプスの他の山だと登山口から山頂まで1,500m以上登るところがざらにあるので、それに比べればずいぶん軽い部類です。
ただし「軽い」と「楽」は別の話です。樹林帯を抜けたあとの山頂直下は岩場になりますし、上高地側へ下りるなら金属のハシゴを何本も下ることになります。手を使う場面が確実にあるので、両手が空くようにザックのパッキングは考えておいたほうがいい。あと、火山なので噴火警戒レベルは登る前に必ず確認してください。2026年3月4日にレベル1(活火山であることに留意)へ引き下げられて北峰に登れる状態が続いていますが、この山はレベルが上がったり下がったりを繰り返しています。気象庁の発表を見るのが確実です。
アクセス・駐車場
先に結論を書くと、駐車場は路肩スペースで15台ぶんしかありません。トイレもありません。ここが新中の湯ルート最大のハードルです。
| 最寄りIC | 長野自動車道 松本IC(国道158号を上高地方面へ) |
| 駐車場 | 新中の湯登山口 路肩スペース(約15台・無料) |
| トイレ | なし |
| 道路 | 安房峠旧道。11月15日〜4月27日は冬期閉鎖 |
行き方は、松本ICから国道158号で上高地方面へ進み、上高地入口を過ぎたところの安房峠道路との分岐を「旧道・高山/安房峠方面」へ右折します。中の湯温泉旅館を過ぎた先の左カーブが登山口です。カーナビだと通り過ぎやすいので、旧道に入ったら速度を落として左側を見ていてください。

この日は6時30分に着いて、なんとか停められました。写真のとおり、車は登山口の前後に長く連なっています。9月の連休、しかも日曜日ということを考えると、6時台でこれなら遅いほうかもしれません。
- トイレは登山口にないので、途中のコンビニか道の駅で済ませておく
- 路肩に停めるときは、他の車が通れる幅を必ず残す
- 満車だった場合の逃げ道を先に決めておく(中の湯温泉旅館の駐車場は有料・要予約)
- 旧道は冬期閉鎖があるので、11月中旬以降に行くなら道路情報を確認する
駐車場が不安なら、上高地から登る手もある
15台という数字を見て不安になった人は、はじめから上高地側の駐車場を使う方法があります。上高地はマイカーの乗り入れが禁止されているので、手前の駐車場に停めてバスかタクシーで入る形です。
| 駐車場 | 台数 | 料金 | 上高地まで |
|---|---|---|---|
| 沢渡(さわんど) | 臨時を含め約2,000台 | 1日700円 | バス約30分・1,250円/タクシー一律4,200円 |
| あかんだな | 850台 | 1日600円 | シャトルバス約35分・1,160円/タクシー4,500円 |
沢渡は松本ICから約33km、あかんだなは中部縦貫道の高山ICから約57kmです。台数に余裕があるので、朝の時間に縛られたくない人にはこちらのほうが安心だと思います。上高地から登って上高地へ下りれば、車の回収も気にしなくて済みます。
コースタイム一覧
| 時刻 | 地点 |
|---|---|
| 06:42 | 新中の湯登山口 出発 |
| 08:13 | 焼岳北峰 着(登り1時間31分) |
| 08:42 | 焼岳北峰 発(山頂で29分休憩) |
| 09:09 | 中尾峠 |
| 09:18 | 焼岳小屋 |
| 09:23 | 新中尾峠(展望台) |
| 10:26 | 焼岳 上高地側登山口 |
| 10:43 | ウエストン碑 |
| 10:57 | 河童橋 |
登山口から山頂まで1時間31分は、標準コースタイムよりだいぶ速いペースです。ゆっくり登る人なら2時間半は見ておいたほうがいいと思います。ハシゴ帯を含む下りに1時間44分かかっているので、上高地まで抜けるなら休憩込みで5〜6時間の余裕をみてください。
区間レポート
登山口〜樹林帯:前日の雨で登山道が川になっていた
この区間で覚えておいてほしいのは、雨の翌日は登山道がそのまま水路になるということです。

写真のとおり、丸太で組んだ段の上を水が流れていました。泥と濡れた木の組み合わせはよく滑ります。ここを軽い気持ちで飛び越えようとすると転ぶので、面倒でも一歩ずつ足を置く場所を選んだほうが早いです。
樹林帯は展望がないぶん、黙々と登る時間になります。この日は雲の中に向かって歩いている感じで、上を見ても白いだけ。途中で一度だけ晴れ間がのぞいて「お?」と思ったんですが、すぐにまた隠れました。
山頂:真っ白。でも足元は完全に火山だった
展望はゼロでしたが、それでも登ってよかったと思えたのは足元のほうが面白かったからです。

山頂標識のまわりは岩とザレで、視界の先は全部ガス。天気がよければ穂高連峰が正面に見えるはずの場所です。それでも「登った」という事実だけで嬉しいのが山のいいところで、しばらく座って29分休憩しました。

これが焼岳らしさだと思います。岩の隙間に黄色い粒がびっしり溜まっていて、あたりには硫黄の匂いが漂っている。噴気孔が近いところでは、気をつけていないと分からないくらいの温かい風が吹いています。
火山ガスは体調によっては影響が出ます。気分が悪くなったら無理せず、風上へ移動するか下山してください。ヘルメットを持っていくかどうかは意見が分かれるところですが、気象庁は想定火口域での着用をすすめています。
中尾峠〜焼岳小屋:クマの目撃情報が出ていた
ここでいちばん伝えたいのは、この区間でクマが目撃されていたことです。

中尾峠を過ぎて少し下ったところに焼岳小屋があります。売店があって、トイレは100円で使えます。登山口にトイレがないので、ここまで我慢するか、上高地まで下りるかの二択になります。

小屋の前に黒板が出ていて、前日(9月20日)の14時頃に展望所から焼岳小屋の間でツキノワグマが1頭目撃された、と書かれていました。日本語と英語の両方で書いてあって、わざわざ手描きのクマの絵まで添えてある。この辺りでクマが出るのは珍しいそうです。
クマ鈴を持っていない人は、この区間だけでも音を出しながら歩いたほうがいいと思います。稜線から樹林帯に入るところで見通しが悪くなるので、なおさら。
上高地への下り:晴れて、そしてハシゴが出てくる
この区間の主役は2つ。ようやく見えた焼岳の全景と、その後に待っている3連のハシゴです。

山では珍しくない話ですが、山頂を離れたとたんに雲が切れました。振り返ると、さっきまで自分が立っていた岩稜が青空に浮かんでいる。ちょっと悔しいけれど、この景色が見られただけでも下りが楽しくなりました。

そして問題のハシゴです。金属製のものが3本、縦につながって岩壁に架かっています。上から覗き込むと下が見えないくらい急で、正直こわかった。
- 必ず正面を向いて、後ろ向きに下りる(前を向いて下りようとすると足が置けません)
- 両手を空ける。ストックはザックにしまう
- 濡れていると金属はよく滑るので、雨のあとは特に慎重に
- 下に人がいるときは待つ。落石も落とし物も直撃します
高所が苦手な人は、ここが往復ルートを選ぶ理由になると思います。新中の湯ルートを登って同じ道を戻れば、ハシゴには一切触れずに済みます。

ハシゴを過ぎると、谷の向こうに霞沢岳が大きく見えてきます。稜線に雲を乗せた姿がよくて、しばらく足が止まりました。眼下の谷筋を上高地へ向かうバスが走っているはずで、そう思うと不思議な感じがします。
上高地:観光地に着地する
10時26分に上高地側の登山口へ下山。ここから先は登山道ではなく、観光客が歩く遊歩道になります。

梓川の河原まで下りてきて振り返ると、焼岳が立っています。数時間前に自分が立っていた場所を下から見上げるのは、縦走コースならではの楽しみだと思います。
そこからウエストン碑を通って河童橋まで歩き、10時57分に到着。登山靴のまま観光地に紛れ込む感じになります。人がとにかく多い。
車に戻るまで:最後の坂がいちばんきつかった
正直に書くと、この日いちばん疲れたのはここです。
マイカーで新中の湯登山口に停めた場合、上高地に下りると車は反対側に置き去りです。上高地からシャトルバスに乗って中の湯バス停まで戻り、そこから安房峠旧道を歩いて登山口の駐車場まで登り返すことになります。
この登り返しの舗装路が、地味に効きます。山を下りきって気が緩んだあとに、また標高を上げるわけですから。所要時間と運賃はシーズンやダイヤで変わるので、上高地バスターミナルで確認してください。バスの本数が減る時間帯もあります。
この手間が面倒なら、選択肢は2つあります。ひとつは新中の湯ルートを往復すること。もうひとつは、はじめから沢渡かあかんだなの駐車場に停めて、バスで上高地に入り、上高地から登って上高地へ下りること。どちらも車の回収を考えなくて済みます。
総評
| 項目 | 評価 |
|---|---|
| 道 | 樹林帯はよく踏まれていて分かりやすい。雨のあとはぬかるむ。上高地側は3連ハシゴあり、手を使う場面が続く |
| 景色 | 晴れれば穂高連峰と上高地が一望。この日は山頂ガスで、下山中に霞沢岳と焼岳の全景が見られた |
| 補給 | 焼岳小屋に売店あり。それ以外は何もないので、水と行動食は持参前提 |
| アクセス | 松本ICから約1時間。ただし駐車場は路肩15台のみ。上高地へ抜けると車の回収にひと手間かかる |
| 注意点 | 活火山・火山ガス/ハシゴの下り/登山口にトイレなし/クマの目撃情報/旧道の冬期閉鎖 |
下山後のお楽しみ
登山口のすぐ近くに中の湯温泉旅館があります。日本秘湯を守る会の会員宿で、そのまま帰るにはもったいない場所です。
| 施設名 | 中の湯温泉旅館 |
| 住所 | 長野県松本市安曇4467 |
| 電話 | 0263-95-2407 |
| 日帰り入浴 | 12時〜17時退館(水不足や混雑時は16時退館の場合あり) |
| 料金 | 1,000円 |
実際に入ってきましたが、いい秘湯でした。山を下りてすぐ、車をほとんど動かさずに温泉に入れるのがありがたい。
注意したいのは受付時間です。日帰り入浴は12時からなので、早出して午前中に下山すると開いていません。10時以降は清掃のため入館を控えるようにという掲示も出ていました。焼岳を往復して午前中に戻ってきた場合は、少し時間を潰す必要があります。
料金は変わります。この日は800円でしたが、2026年4月10日以降は1,000円になりました。上の表は公式サイトで確認した2026年8月時点の情報です。行く前にもう一度公式サイトを見てください。
シャンプー・リンス・ボディソープ・ドライヤーは備え付けです。タオルを忘れてもバスタオルのレンタル(300円)や名入れタオルの販売(200円)があるので、手ぶらでも入れます。12時から15時までは家族風呂も、空いていれば予約なしで使えるとのことでした。
食事をどこで取るか
上高地に下りた時点でまだ午前中だったので、この日は食事を取らずにそのまま戻りました。上高地バスターミナルの周辺には食堂や売店があるので、バスを待つ間に済ませてしまうのも手です。中の湯温泉旅館にも売店があります。
まとめ
焼岳は「北アルプスに行ってみたいけど、いきなり槍や穂高は無理」という人にちょうどいい山だと思います。登り800mちょっとで、火山らしい景色と上高地の景色が両方手に入る。日帰りで完結するのも助かります。
こんな人におすすめ
- 北アルプスデビューを考えている人:標高差と時間のバランスがいい。往復なら4〜5時間
- 火山の地形を見てみたい人:硫黄、噴気、ザレた岩肌が山頂で一度に見られる
- 上高地に行ったことがある人:いつも見上げていた山に登って、同じ場所へ下りてくる面白さがある
- 下山後の温泉を重視する人:登山口のすぐそばに秘湯がある山は、そう多くありません
逆に、気をつけたほうがいい人
- 高いところが苦手な人は、上高地側へ下りるルートは避けて往復にする
- 朝が苦手な人には駐車場のハードルが高い。6時台でほぼ埋まります
- トイレが近い人は、登山口に設備がないことを織り込んで計画してください
いつ行けるか
新中の湯ルートを使うなら、安房峠旧道が開いている期間に限られます。冬期閉鎖は11月15日から4月27日まで。つまりシーズンは4月末から11月中旬までです。この日のように9月下旬だと、標高が高いぶん朝は冷えます。行動中は暑くても、山頂で休んでいると冷えてくるので、薄手でいいので羽織るものを1枚。
持ち物で特に言っておきたいのは、両手が空く状態をつくれること。ハシゴを下るときにストックを持ったままだと本当に危ないので、ザックの横に挿せるようにしておいてください。あとはクマ鈴と、火山ガス対策として体調が悪くなったら引き返す判断です。
この日は山頂が真っ白でしたが、それでも十分に楽しめました。晴れた日にもう一度登って、穂高が並ぶ景色を見てみたいと思っています。
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当日の軌跡と写真37枚は、YAMAPの活動日記にまとめています。
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